ポルシェ・カイエン 詳細データテスト 無駄なアシストのないV8 クラス最高水準のドライバビリティ

公開 : 2024.03.09 20:25

操舵/安定性 ★★★★★★★★★☆

オフィシャル書類を読み解いていくと、カイエンのヨーレベルが「いつものハイレベル」にあるという記述にぶつかる。公正を期すなら、このクルマの思いがけないほどスリップアングルを得られる能力を考えれば、ポルシェがこういう苦笑もののユーモアにひとりウケしてもしかたなくはある。

22年にわたり、カイエンはSUVの走りのダイナミクスにおけるベンチマークであり、これを脅かす存在はランボルギーニウルスフェラーリプロサングエといった、スーパーカーブランドによるフォロワーくらいだ。

スーパーSUVの価格帯でなければ、アジリティや操縦性でカイエンに敵うSUVはない。スポーティなモードで攻めるのも楽しが、ノーマルモードでゆったり走るのも気持ちいい。
スーパーSUVの価格帯でなければ、アジリティや操縦性でカイエンに敵うSUVはない。スポーティなモードで攻めるのも楽しが、ノーマルモードでゆったり走るのも気持ちいい。

10万ポンド(約1900万円)以下の価格帯だと、いまだに無敵だ。主要なライバルといえばレンジローバー・スポーツだが、あちらはずっとエレガントなハンドリングの持ち主であるいっぽう、SVRでない仕様では操縦性やアジリティで太刀打ちできない。ひとことで言えば、英国のスポーティSUVは、サルーン的なコーナリングなのだ。

アップデート版カイエンには、歴代のレガシーが息づいている。テストしたカイエンSは、後輪操舵とエアサスペンションを装備していたが、それらがなかったとしてもまちがいなく、トップクラスの挙動を見せ、持ち前の正確さで、A級道路でもB級道路でも、難易度の高いコースをうまくこなしたはずだ。

ヒップポイントは高いままだが、ほかのSUVより路面との距離が縮んだように感じさせるクルマだ。一体感と自然な手応えのあるステアリングは、コーナーへの直感的な進入を可能にする。よりスポーティなモードではスピードや進行方向を教えるのにちょうどいいくらいのロールのみを発生し、それ以上の無駄はない。スポーツプラスモードでは、911のベーシックなカレラくらいにはついていけそうだ。

そうはいっても、楽しいのはノーマルモードで、V8のトルク任せで流しているときだ。SUVでそれができるものはめったにないが、カイエンSはわずかなスロットルコントロールで、楽な走りをよろこびに変えてくれるのだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    役職:ロードテスト副編集長
    2017年よりAUTOCARでロードテストを担当。試乗するクルマは、少数生産のスポーツカーから大手メーカーの最新グローバル戦略車まで多岐にわたる。車両にテレメトリー機器を取り付け、各種性能値の測定も行う。フェラーリ296 GTBを運転してAUTOCARロードテストのラップタイムで最速記録を樹立したことが自慢。仕事以外では、8バルブのランチア・デルタ・インテグラーレ、初代フォード・フォーカスRS、初代ホンダ・インサイトなど、さまざまなクルマを所有してきた。これまで運転した中で最高のクルマは、ポルシェ911 R。扱いやすさと威圧感のなさに感服。
  • 執筆

    マット・ソーンダース

    Matt Saunders

    役職:ロードテスト編集者
    AUTOCARの主任レビュアー。クルマを厳密かつ客観的に計測し、評価し、その詳細データを収集するテストチームの責任者でもある。クルマを完全に理解してこそ、批判する権利を得られると考えている。これまで運転した中で最高のクルマは、アリエル・アトム4。聞かれるたびに答えは変わるが、今のところは一番楽しかった。
  • 翻訳

    関耕一郎

    Kouichiro Seki

    1975年生まれ。20世紀末から自動車誌編集に携わり「AUTOCAR JAPAN」にも参加。その後はスポーツ/サブカルチャー/グルメ/美容など節操なく執筆や編集を経験するも結局は自動車ライターに落ち着く。目下の悩みは、折り込みチラシやファミレスのメニューにも無意識で誤植を探してしまう職業病。至福の空間は、いいクルマの運転席と台所と釣り場。

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