ポルシェ・マカン・エレクトリック 詳細データテスト クラス最速レベル ブレーキとシャシーに疑問符

公開 : 2025.03.15 20:25

操舵/安定性 ★★★★★★☆☆☆☆

今回ほど、タイヤの重要性が明らかになったテストはめったにない。コンディションは、理想的とはいえなかった。気温は5℃以下の凍えるような気候で、冷えた路面には湿ったところもあった。しかし、英国ポルシェが用意したマカンには、サマータイヤのピレリPゼロPZ4が履かされていた。しかし、それでもクルマの挙動が予想どおりなら、グリップ不足は評価に入れない。

路面が完全ドライでなければ、乗り心地もハンドリングも、せいぜいこれまでのポルシェの標準程度。低いグリップの悪影響を増幅するのが、オプションの過敏な後輪操舵システムと、トルク配分が予期しづらい四輪駆動。そのせいで、自信を持って運転できないのだ。

ターボには、みごとな出来の18ウェイ調整式アダプティブスポーツシートが標準装備。乗り心地は、タイヤ選択で多少ながら改善できる。
ターボには、みごとな出来の18ウェイ調整式アダプティブスポーツシートが標準装備。乗り心地は、タイヤ選択で多少ながら改善できる。    MAX EDLESTON

ステアリングフィールはポルシェらしく、破綻のないスムースなものだが、普段のポルシェにあるようなフィードバックはない。いっぽうで後輪操舵は、中速域でカウンターステアが大きすぎる傾向で、結果としてレスポンスがややナーバスになる。ステアリングのフィードバックの欠如と合わさると、前輪のキャパシティをすぐに超えて、アンダーステアに陥ってしまう。

有り余るパワーも、問題の解決にはつながらない。前後とも、容易にトラクションを失ってしまう。PSMことポルシェスタビリティマネージメントのおかげで、手に負えなくなることはない。しかし、自信を持って狙ったところを通すことができない。だいたいこの辺、といった走り方も難しい。

PSMを切ってウェットハンドリングコースを走ると、マカンは完全に予測不能になる。グリップしたり、オーバーステアが出たりするが、そうなる前にはっきり教えてくれることはない。ドライコースでなら状況が改善され、ハンドリングは予測できるようになり、ヘアピンでドリフトすることも可能になる。

しかしながら、アウディQ6 E-トロン・クワトロの標準モデルにもあるスイートなバランスが、このマカンにはない。また、コーナリング中は常に重量の大きさを感じさせる。

結局、このクルマをファントゥドライブだということはできない。乗り心地がよくないのも問題だ。アダプティブダンパーとエアスプリングを標準装備していながら、バンピーな道では過剰なピッチやヘッドトスが出る。まるで四輪が、まったく個別に動かないようだ。

セカンダリーライドは平均的。基本的に脚が硬い感じで、標準仕様より2インチ大きいテスト車の22インチタイヤは、路面の穴や波打ちでドシンドシンとショックを伝えてしまう。

こうした挙動は、ポルシェらしくない。もしかしたら使用による個体差かもしれないので、同じサイズのグッドイヤー・イーグルF1スーパースポーツか、ブリヂストン・ポテンザスポーツを履いたクルマが用意できないか、広報に問い合わせた。

そして、短時間ながらタイヤ銘柄の違う車両に試乗してみたのだが、事態は改善された。グリップレベルは明らかに上がり、より自信を持って走れるし、電子制御系の介入は穏やかになった。

サマータイヤに適さない環境は変えることができないので、グリップが限界に達することはあったが、唐突ではなく徐々に落ちていく感じになった。振幅が小さく、周波数の高い路面不整での乗り心地も、わずかながらよくなった。

基本的な問題はいくつか残った。プライマリーライドはタイヤで変わることはなく、後輪操舵と四輪駆動はベストなシステムにあるようなわかりやすさが欠如している。

同じピレリでも違うサイズを履き、スティールスプリングとアダプティブダンパー、通常のステアリングを備えるマカン4に試乗したこともあるが、今回のターボよりはるかに運転に熱中できた。ステアリングには、もっとコミュニケーションがあった。ハンドリングバランスは予想しやすく、たいていの場合は足取りがしっかりしているが、攻めてみるとスロットルでのアジャストもそこそこ効く。より小径のタイヤは、セカンダリーライドを改善したが、プライマリーライドが忙しないのは同じだった。

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    役職:ロードテスト副編集長
    2017年よりAUTOCARでロードテストを担当。試乗するクルマは、少数生産のスポーツカーから大手メーカーの最新グローバル戦略車まで多岐にわたる。車両にテレメトリー機器を取り付け、各種性能値の測定も行う。フェラーリ296 GTBを運転してAUTOCARロードテストのラップタイムで最速記録を樹立したことが自慢。仕事以外では、8バルブのランチア・デルタ・インテグラーレ、初代フォード・フォーカスRS、初代ホンダ・インサイトなど、さまざまなクルマを所有してきた。これまで運転した中で最高のクルマは、ポルシェ911 R。扱いやすさと威圧感のなさに感服。
  • 執筆

    イリヤ・バプラート

    Illya Verpraet

    役職:ロードテスター
    ベルギー出身。AUTOCARのロードテスターとして、小型車からスーパーカーまであらゆるクルマを運転し、レビューや比較テストを執筆する。いつも巻尺を振り回し、徹底的な調査を行う。クルマの真価を見極め、他人が見逃すような欠点を見つけることも得意だ。自動車業界関連の出版物の編集経験を経て、2021年に AUTOCAR に移籍。これまで運転した中で最高のクルマは、つい最近までトヨタGR86だったが、今はE28世代のBMW M5に惚れている。
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    関耕一郎

    Kouichiro Seki

    1975年生まれ。20世紀末から自動車誌編集に携わり「AUTOCAR JAPAN」にも参加。その後はスポーツ/サブカルチャー/グルメ/美容など節操なく執筆や編集を経験するも結局は自動車ライターに落ち着く。目下の悩みは、折り込みチラシやファミレスのメニューにも無意識で誤植を探してしまう職業病。至福の空間は、いいクルマの運転席と台所と釣り場。

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