「何よりも大切なのは運転する喜び」 ヒョンデの走りを変える開発責任者マンフレッド・ハラー氏に会う

公開 : 2025.10.21 17:45

ヒョンデ・モーター・グループのすてべの車両開発を統括するマンフレッド・ハラー氏。業界が大きく変わる中、開発スピードの高速化や各ブランドのキャラクター確立、SDV導入など、優先的に取り組んでいる課題を訊きました。

700万台に影響を与える人物

マンフレッド・ハラー氏は挑戦を恐れるようなエンジニアではない。

これまでのキャリアで、彼はポルシェ911の油圧式ステアリングから電動式への転換、そして四輪操舵システムの採用を指揮した。さらにポルシェにおいて物議を醸し、しばしば歓迎されない自動運転機能の開発も主導してきた。

マンフレッド・ハラー氏
マンフレッド・ハラー氏

また、BMWではR50型ミニの電動ステアリングのフィーリングを改善する役割を託され、その後R56型でのステアリング開発を主導した。ハラー氏は電動ステアリングのスペシャリストであり、本業の傍ら英国バース大学で同技術に関する博士号まで取得している。

ポルシェ在籍後、米国のアップルで極秘の自動車開発プロジェクト(最終的に中止)に携わった。その後、BMW M部門の長年の開発責任者であり、近年はヒョンデ/キアの開発を率いているアルベルト・ビアマン氏との出会いがきっかけで、韓国行きを決めた。

ハラー氏がAUTOCARの取材に応じたのは、韓国ソウル南部に位置するヒョンデ・モーター・グループ(HMG)の研究開発拠点だ。ジェネシスおよび高性能車の開発責任者として同社に加わってから、ちょうど1年が経つ。

この1年はハラー氏にとって「会社の仕組み」を学ぶための「ウォーミングアップ」の期間だったという。今年初め、彼は驚異的なスピードで昇進し、ヒョンデ/キア/ジェネシスの全乗用車および小型商用車の開発統括責任者に就任した。長年同社で働く同僚たちは「これほどの昇進は見たことがない」と口を揃える。

世界第3位の自動車メーカーという巨大なグローバル企業において、ハラー氏は6000人のエンジニアを率いて、欧州、北米、中国、インド、新興市場向けのモデル開発を監督している。年間700万台以上の車両に彼の影響力が及ぶことになるのだ。

激動の時代を迎える業界最前線

こうした背景を踏まえると、ハラー氏の就任を伝えるHMGの発表文に、意図せずプレッシャーを感じさせる口調が滲むのも無理はない。「ハラー氏のリーダーシップが電動化移行を加速させ、EV時代におけるトップクラスの主導権を確保し、ヒョンデとキアの製品競争力を高めると期待している」というものだ。

彼にとって最初の課題は文化的なものだった。ドイツの自動車メーカー、特にフォルクスワーゲン・グループで長年働いてきた経験により、独特の業務スタイル(働き方)が身についてしまっていたのだ。

ヒョンデ・アイオニック5 N
ヒョンデ・アイオニック5 N

「成功した企業には、すでに確立されたプロセスが存在します。『おれのやり方が正しい』という態度で仕事をするわけにはいきません。耳を傾け、学び、観察しなければなりません。問題や課題に取り組む同僚の姿勢はまったく異なります」とハラー氏は語る。

しかし、こうした障壁も、技術的課題に比べれば取るに足らないものだ。

ハラー氏は、今の自動車業界では「100年で最大の変化」が起きているという、よく使われる言葉を引用する。しかし、彼はまさに、この変化の最前線に立っている。それを体現するものとして、彼は内燃機関から電気モーターへの移行だけでなく、ソフトウェアとソフトウェア定義型車両(SDV)を挙げている。

ハイブリッド車の再興もまた、最近の予期せぬ変化である。

「進行中のタスクは山ほどあります」と彼は淡々と語る。過去を振り返ると、かつては「コンバーチブル仕様を作るべきか否か」といったレベルの意思決定しかできなかったという。時代は変わるものだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーク・ティショー

    Mark Tisshaw

    役職:編集者
    自動車業界で10年以上の経験を持つ。欧州COTYの審査員でもある。AUTOCARでは2009年以来、さまざまな役職を歴任。2017年より現職の編集者を務め、印刷版、オンライン版、SNS、動画、ポッドキャストなど、全コンテンツを統括している。業界の経営幹部たちには定期的にインタビューを行い、彼らのストーリーを伝えるとともに、その責任を問うている。これまで運転した中で最高のクルマは、フェラーリ488ピスタ。また、フォルクスワーゲン・ゴルフGTIにも愛着がある。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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