なぜポルシェ911ばかり注目されるのか? 話題になる理由とは 英国記者の視点

公開 : 2025.09.26 17:45

自動車メディアではポルシェ911の話題が頻繁に取り上げられます。それは単に「優れたクルマだから」という理由だけでなく、直接対抗し得るライバルが少ないという事情もあります。AUTOCAR英国記者コラムです。

ライバルが少ない孤高の存在

この記事はポルシェ911について書いたものだ。読者の中には、メディアはこのクルマについて記事を書きすぎだと思う人もいるかもしれない。確かに、それも一理あるが、理由はちゃんとある。

最近特に、911が筆者の頭から離れない。これは911関連の仕事が続いたせいだろう。ここ数週間で、ターボSベースのRML P39プロトタイプを試乗し、ヴァイザッハではハイブリッドの新型ターボSのプレビューに参加し、カレラSで約2500kmを走破した。

ポルシェ911は厳しい市場環境で生き残った数少ない2+2スポーツカーだ。
ポルシェ911は厳しい市場環境で生き残った数少ない2+2スポーツカーだ。

この三連戦のハイライトは決めかねる。カーボンボディのRMLは911 GT1ストラッセンバージョンへのオマージュだが、出力は50%増、ダウンフォースは1トン、しかも標準の911に匹敵する乗り心地を備えている。誰もが求めているクルマではないが、確かにクールだ。同様に、ヨルグ・ベルクマイスターが運転するターボSの開発車両の助手席に座り、185km/hでスライドした後で「今日はどうだった?」と尋ねられたのも忘れがたい。同じ同乗体験をした、別の有名誌の記者はかなりエキサイトしていた。

そしてカレラSだ。最も特徴的なクルマとは言えないが、数日の間にイングランド西部の郊外道路でスリルを味わい、アウトバーンで325km/hを叩き出し、心地よいBurmesterサウンドに包まれながら10時間のドライブをこなす――それは確かに特別な体験だった。それでいて、マンハイムの雑多な駐車場に駐めても、不安になるほど目立つ特別感はなかった。単なるスポーツカーではなく、心躍るような相棒を求めるなら、カレラSだ。

わたし達が911について頻繁に記事を書くのは、ツッフェンハウゼンから袖の下を受け取っているからではない。シンプルに、極めて優れたクルマだからだ。それだけでなく、最近は、911に真正面から対抗できるライバルがほとんどいないという寂しい状況も続いている。

新型カレラSで何百kmも走る間、筆者はこのことを何度も考えた。ライバルたちは、一体どこへ消えてしまったのだろうか? つい最近まで、911の販売台数の約3分の1を占める主力モデルであるカレラSは、ジャガーFタイプ日産GT-RロータスエヴォーラメルセデスAMG GTアストン マーティンV8ヴァンテージアウディR8マセラティ・グラントゥーリズモなど、多くの車種と厳しく比較検討されていた。レクサスも、魅力的なLC 500を投入していた。

今では、ジャガー、日産、レクサス、アウディはすべて英国から姿を消した。AMG GTはV8エンジンを搭載するが、不必要な4WDしか用意されていない。アストンとマセラティの価格は、天文学的な数字にまで上昇した。エヴォーラとは異なり、エミーラには後部座席がなく、収納スペースも乏しく、置かれている状況も芳しくない。AMGはV8を搭載したCLEを開発中だが、重量を軽く抑えられるとはとても考えられない。コルベットも素晴らしいクルマだが、少し派手すぎる感もある。

では、BMW M4 CSはどうか。驚異的なマシンであり、速くて、実用的で、ポルシェと同価格帯だ。だが、カレラSに匹敵する総合力を持つライバルが、カップホルダーすらなく、大人びているとは言い難い、マニアックで過激なMクーペしかないというのは、少し寂しいものがある。意外にも、レクサスが救世主となるかもしれない。レクサスはGT3レーシングカーのホモロゲーション取得に向けてV8クーペを開発中で、こういう取り組みこそ応援したい。

今のところ、カレラSは孤高の存在と言える。スポーツカーを取り巻く厳しい環境に飲み込まれ、ライバルたちが次々と身を引いていく中、911は生き残った。ポルシェにとっては理想的な状況に思えるかもしれないが、実際には違う。エンジニアは競争を愛する。競争は製品改良を促し、自らの技術的アイデンティティを磨くきっかけとなるのだ。競争相手が少ない環境は決して健全ではない。手頃な価格帯でドライバー重視の2+2スポーツカー市場がこれほど貧弱な品揃えでは、誰にとっても面白くないだろう。

わたし達のような雑誌記者は特に、画一的な状況を嫌う。それは比較テストの規模縮小や多様性の欠如を意味し、ステアリングフィールやハンドリングバランスといった評価が、他社との比較基準を欠いた真空状態で存在することになるからだ。他社は異なる手法で、時に「優れ」、時に「劣る」製品を生む。そうでなければ評価は偏ってしまうだろう。わたし達は単純な生き物で、比較対象や基準となるものが欲しいのだ。だから、ポルシェには今のまま続けてほしい。できれば、カレラSをもっと軽くしてくれると嬉しいのだが。

他のメーカーは、そろそろ頑張ってほしいところだ。素晴らしい新モデルを出して、わたし達に選択肢を与えてほしい。さもないと、911の話を延々と続けることになる。

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    役職:ロードテスト副編集長
    2017年よりAUTOCARでロードテストを担当。試乗するクルマは、少数生産のスポーツカーから大手メーカーの最新グローバル戦略車まで多岐にわたる。車両にテレメトリー機器を取り付け、各種性能値の測定も行う。フェラーリ296 GTBを運転してAUTOCARロードテストのラップタイムで最速記録を樹立したことが自慢。仕事以外では、8バルブのランチア・デルタ・インテグラーレ、初代フォード・フォーカスRS、初代ホンダ・インサイトなど、さまざまなクルマを所有してきた。これまで運転した中で最高のクルマは、ポルシェ911 R。扱いやすさと威圧感のなさに感服。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

関連テーマ

おすすめ記事

 

人気記事