ロータス・エミーラ 詳細データテスト 古き佳きロータスの魅力健在 高い質感と実用性 ネックは価格

公開 : 2025.04.19 20:25  更新 : 2025.04.19 22:35

走り ★★★★★★★★★☆

ロータスはシャシーが命、というのが一般的なイメージだろう。しかし、いまや最後の内燃エンジンモデルとなってしまったエミーラなら、このV6スーパーチャージャーとMTも、手に入れる動機となりうる。もっとも、これは毎度のことながら、好みや使い方によって、良くも悪くもなる諸刃の剣でもある。

このV6の出自は、純粋なパフォーマンスエンジンではなく、トヨタの主にアメリカ向けとなる実用エンジンだ。スーパーチャージャーの唸りと相まって、低回転でのサウンドはポルシェ718GTS4.0のようなスポーツカー用ではなく、産業用エンジンを思わせる。高速道路での巡航時には、常にこの音を聞きながら走ることになりかねない。

MTなので、イージーに速いというわけではないし、変速を完璧に決めるには多少のコツがいる。しかし、その操作のし甲斐があるクルマだ。
MTなので、イージーに速いというわけではないし、変速を完璧に決めるには多少のコツがいる。しかし、その操作のし甲斐があるクルマだ。    MAX EDLESTON

とはいえ、無音のモーターで走るクルマが増えている昨今では、その機械的な感覚があるだけでも喜ばしい、というのがテスター陣の感想だ。

それより回転を上げると、ターボで音が殺されていないエンジンは、いかにもV6らしいキャラクターをのぞかせる。低音寄りで、フェラーリ296やアルファ・ロメオのブッソV6のような美しい旋律は感じさせないが、それでも魅力的。そこに、スーパーチャージャーならではの響きが加わる。

6速MTは、エンジンと同じくらいエミーラの走りを特徴づける要素だ。いまやMTのパフォーマンスカーが少ないということもあるが、このギアボックス自体のキャラが立っていることも理由のひとつだ。

このエミーラで、可能な限り速い発進加速をしようとすれば、このMTは厄介に思えるだろう。鋭いスタートダッシュが楽にできるメカニズムではないからだ。MTにはローンチコントロールがないので、エンストさせずに後輪を最大限活かすスイートスポットを見つけるのは容易ではない。

クラッチをつないでも、親の仇のようにシフトアップは賭けだ。うまくハマらないと失速してしまう。エンジンは7000rpmのレッドラインにあと200rpm届かないあたりでリミッターが効くようだ。音を聞いていると7500rpmまで回りそうなのだが。

最終的にわれわれは、0-100km/hで公称値にあとコンマ3秒にまで迫った。これはBMW M2のMT車をわずかに凌ぎ、4速での48-113km/hは0.4秒速い。ただし、M2はわれわれのテストのあとで、20psアップしている。

この2台を比較すると、エミーラのシフトチェンジの影響が見て取れる。63/117/159/204km/hで変速するが、そのたびにM2はエミーラのリードを削り取っている。

公道では、いやサーキットでも、ギアボックスにもっとも適したペースを見つけるには多少の経験が要求される。そのポイントでは、短すぎも長すぎもしないストロークは非常に精緻で機械的になる。巧みな操作が必要だが、そうする甲斐は十分すぎるほどある。

このトランスミッションは、エミーラを麗しいアナログなクルマにしている。回転数を選ぶことも、ドライバーに託される。自動回転合わせも、クラッチをつなぐ際にECUがエンストを防ごうと回転を上げる制御もない。ヒールアンドトゥも直感的に決まるので、われわれとしてはありがたい。

2022年にプリプロダクションモデルを試乗した際には、ブレーキペダルがソフトで、回転合わせがしづらいことを不満に思ったが、今回のテスト車にそういう問題はなかった。敢えていうなら、低速域でちょっとだけ扱いづらさがあったことが気になったくらいだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・ソーンダース

    Matt Saunders

    役職:ロードテスト編集者
    AUTOCARの主任レビュアー。クルマを厳密かつ客観的に計測し、評価し、その詳細データを収集するテストチームの責任者でもある。クルマを完全に理解してこそ、批判する権利を得られると考えている。これまで運転した中で最高のクルマは、アリエル・アトム4。聞かれるたびに答えは変わるが、今のところは一番楽しかった。
  • 執筆

    イリヤ・バプラート

    Illya Verpraet

    役職:ロードテスター
    ベルギー出身。AUTOCARのロードテスターとして、小型車からスーパーカーまであらゆるクルマを運転し、レビューや比較テストを執筆する。いつも巻尺を振り回し、徹底的な調査を行う。クルマの真価を見極め、他人が見逃すような欠点を見つけることも得意だ。自動車業界関連の出版物の編集経験を経て、2021年に AUTOCAR に移籍。これまで運転した中で最高のクルマは、つい最近までトヨタGR86だったが、今はE28世代のBMW M5に惚れている。
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    関耕一郎

    Kouichiro Seki

    1975年生まれ。20世紀末から自動車誌編集に携わり「AUTOCAR JAPAN」にも参加。その後はスポーツ/サブカルチャー/グルメ/美容など節操なく執筆や編集を経験するも結局は自動車ライターに落ち着く。目下の悩みは、折り込みチラシやファミレスのメニューにも無意識で誤植を探してしまう職業病。至福の空間は、いいクルマの運転席と台所と釣り場。

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